作成日:2026.07.02
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※本記事は、作成日または最終更新日時点で公表されている制度情報・数値・資料に基づいて作成しています。
【東京エリアで40〜50円台】電力スポット価格はなぜ急騰?EGCが示した4つの原因と蓄電池への影響
価格高騰は「蓄電池に必ず追い風」ではない。見るべきは平均価格ではなく、エリア別の価格差
2026年4月以降、JEPXスポット市場(日本卸電力取引所で、翌日に使う電気を売買する市場)の価格が上昇しました。特に東京エリアでは、エリアプライス(地域ごとに計算される市場価格)の最高値が40〜50円/kWh台に上がっています。
この価格高騰について、EGC(電力・ガス取引監視等委員会:電力・ガス市場の公正性を監視する組織)は、2026年6月19日の第21回制度設計・監視専門会合で要因分析を公表しました。
結論から言えば、今回の高騰はひとつの原因ではありません。燃料費の上昇、長期契約の終了、東北—東京間連系線の制約、発電設備の停止が重なったものです。
BESS(Battery Energy Storage System:蓄電池システム)事業者にとって重要なのは、「市場価格が上がったから儲かる」と単純に見ることではありません。蓄電池の収益は、安い時間に充電し、高い時間に放電できるか、つまり価格差を取れるかで決まります。
CONTENTS目次
要点まとめ(まずここだけ3行)
・2026年4月以降、JEPXスポット市場の価格が上昇し、東京エリアではエリアプライスの最高値が40〜50円/kWh台に上がりました。
・EGCは、主な要因として「燃料費上昇」「長期電力購入契約の終了」「東北—東京間連系線の制約」「供給力低下」の4点を整理しました。
・BESS事業者は、価格高騰をそのまま収益増と見ず、エリア別価格、充放電スプレッド、連系線制約を分けて確認する必要があります。
何が起きたのか
1.2026年4月以降、スポット市場価格が前年より大きく上昇
資料1では、データセンターや大規模工場などが確保した系統容量を計画どおり使わない場合の対策が議論されました。主な論点は、次の2つです。
EGC資料では、2026年4月以降、スポット市場のシステムプライス(全国の入札をもとに計算される市場全体の基準価格)の平均値が、前年同月と比べて大きく上昇したと整理されています。
資料のグラフは、2025年6月から2026年6月までの各月・各エリアの平均約定価格を示しています。ただし、2026年6月分は6月1日から6月15日までの途中集計です。月全体の確定値として扱わないよう注意が必要です。
2.東京エリアの最高値は40〜50円/kWh台
特に目立つのが東京エリアです。EGC資料では、2026年4月以降、東京エリアのエリアプライスの最高値が40〜50円/kWh台に上昇したとされています。
ただし、ここでいう40〜50円/kWh台は「最高値」の話です。東京エリアの月平均価格が常に40〜50円/kWh台だったという意味ではありません。
なぜ上がったのか:EGCが示した4つの要因
1.燃料費:売り入札の限界費用に含まれる燃料費が10〜15円/kWh程度上昇
1つ目の要因は、燃料費の上昇です。
EGC資料では、中東情勢の影響により、売り入札(電気を売る側の入札)の限界費用に含まれる燃料費が10〜15円/kWh程度上昇していると説明されています。限界費用とは、追加で1kWhの電気を発電するために必要な費用のことです。
ここで重要なのは、「スポット価格が必ず10〜15円/kWh上がった」という意味ではないことです。10〜15円/kWh程度上がったのは、売り入札の限界費用に含まれる燃料費です。実際の市場価格は、需要、供給力、連系線、入札方法など複数の要因で決まります。
2.契約:長期電力購入契約の終了で売買入札が増加
2つ目の要因は、大規模事業者が個別に締結していた長期電力購入契約の終了です。
EGC資料では、こうした契約が2026年3月末に終了したことに伴い、スポット市場に大量の売り入札・買い入札が行われたと整理されています。
これまで市場の外で直接取引されていた電気が、スポット市場に出てきたイメージです。市場に出る売り買いの量が増えると、価格の動きも大きくなりやすくなります。
3.送電:東北—東京間連系線の運用容量が制約
3つ目の要因は、東北—東京間連系線の制約です。
連系線とは、地域と地域をつなぐ送電ルートのことです。EGC資料では、東北—東京間連系線について、増強工事の影響により東京向きの運用容量(安全に送れる電気の上限)が抑制されていたと説明されています。
具体的には、東京向き運用容量が約550万kWから約350万kWへ抑制されました。4月30日から5月12日までは約390万〜510万kWまで一時的に緩和されたものの、その後も6月30日まで約200万kW以上抑制される見通しとされています。
東京へ向かう大きな道路が工事で車線規制されたような状態です。東北側に電気があっても、東京へ送れる量が限られれば、東京エリアの価格は上がりやすくなります。
4.供給力:点検・故障で東京エリアの供給力が減少
4つ目の要因は、供給力の低下です。供給力とは、市場に出せる発電能力のことです。
EGC資料では、連系線制約に加え、発電設備の定期点検や故障などにより、供給力に制約が生じたとされています。東京エリアでは、2026年4月・5月の平均供給力が3,437万kWとなり、前年同月の3,710万kWから減少しました。設備故障による停止日数も、前年同月の約1.6倍とされています。
燃料費が上がり、送電ルートが制約され、発電設備の一部も止まる。今回の価格高騰は、こうした複数の要因が重なったものと見るのが正確です。
何が決まり、何がまだ未定なのか
1.現時点で不適切な取引は確認されていない
価格が急に上がると、「誰かが意図的に価格を動かしたのではないか」と疑問を持つ読者もいるはずです。
この点について、EGC資料では、中東情勢を受けて各社の燃料調達状況を確認するなど、監視を強化してきたと説明されています。
そのうえで、現時点では、市場参加者が市場相場を変動させることを目的とした不適切な取引は確認されていないとしています。
2.5月29日にブロック入札の起動費計上を周知
今回、具体的な対応として示されたのが、ブロック入札に関する周知です。
ブロック入札とは、複数の30分コマをまとめて売買する入札方法です。火力発電のように、いったん動かすと一定時間運転する必要がある電源に使われます。
EGC資料では、売りブロック入札をより小さいブロックに分割し、各ブロックに必要な起動費を計上した場合、50円/kWhや60円/kWhといった高価格帯では、約定価格の低下に寄与することを確認したとされています。これはシミュレーション、つまり参考試算です。
そのうえで、2026年5月29日にJEPXを通じて、分割した各ブロックに必要な起動費を計上できることが周知されました。ただし、単一コマでの起動費計上は認められないとされています。
3.価格上限・手数料・BESS向け制度変更は今回決定されていない
今回の資料は、価格高騰の分析と一部運用の明確化を示すものです。JEPXの価格上限や手数料を変更する決定資料ではありません。
また、BESS向けの直接的な制度変更も、今回資料には示されていません。
一方で、EGC資料では、相対卸契約(取引所を通さず、事業者同士で電気を売買する契約)の締結を促す評価のあり方について、今後検討していくとされています。これは「今後検討する論点」であり、具体的な制度変更が決まったわけではありません。
誰に影響するのか
1.新電力はスポット調達比率と資金繰りを再点検
新電力(大手電力会社以外の小売電気事業者)にとって、スポット市場価格の上昇は調達コストに直結します。
EGC資料では、2026年4月以降、旧一般電気事業者およびJERAの買い入札価格の加重平均値が上昇し、買い入札量も大幅に増加しているとされています。加重平均値とは、入札量の大きさも反映した平均値です。
新電力が確認すべきなのは、自社がどれだけスポット市場に依存しているかです。スポット調達比率が高い場合、価格高騰時には調達費が急増し、資金繰りにも影響する可能性があります。
ただし、個別の新電力への影響は、各社の調達構成や契約条件によって異なります。資料だけで個社影響を断定することはできません。
2.BESS事業者はエリア別の充放電スプレッドを確認
BESS事業者にとって重要なのは、平均価格ではなく充放電スプレッドです。
充放電スプレッドとは、安い時間に充電し、高い時間に放電するときの価格差です。蓄電池の市場収益は、価格が高いかどうかだけでなく、この価格差をどれだけ取れるかで変わります。
今回のEGC資料は、BESS向けの制度変更を示すものではありません。それでも、東京エリアの価格上昇、連系線制約、供給力低下は、蓄電池の収益シナリオを見直すうえで重要な材料になります。
実務で確認すべきこと
1.平均価格ではなく、接続エリアのエリアプライスを見る
BESS事業者は、全国平均のような価格だけで判断すべきではありません。
今回のように連系線に制約がある場合、エリアごとに価格差が生じます。東京エリアで価格が高くても、別のエリアで同じ価格になるとは限りません。
蓄電所がどのエリアに接続しているかによって、収益機会は変わります。収益試算では、システムプライスだけでなく、接続エリアのエリアプライスを確認する必要があります。
2.連系線制約と発電停止を収益シナリオに入れる
今回の資料で特に重要なのは、価格高騰が燃料費だけで説明されていないことです。
東北—東京間連系線の運用容量制約、発電設備の点検・故障による供給力低下も、価格上昇の要因として整理されています。
BESSの収益シナリオを作る際は、燃料価格だけでなく、連系線制約、発電停止、エリア別価格差を分けて見る必要があります。価格スパイク、つまり短時間の急な価格上昇がどの時間帯・どのエリアで起きるかが、収益に大きく影響します。
3.ROIは「売電価格」ではなく実質スプレッドで見る
ROI(Return on Investment:投資に対してどれだけ回収できるか)を考える場合も、売電価格の高さだけでは判断できません。
今回の一次資料に、BESS向けROIの計算式は示されていません。そのため、ここでは一般的な考え方として整理します。
BESSの実質収益
= 放電時の売電収入
− 充電時の電力購入費
− 充放電ロス
− 劣化費
− 運用費
充放電ロスとは、充電した電気をすべて取り出せるわけではなく、一部が失われることです。劣化費とは、充放電を繰り返すことで電池の性能が少しずつ下がるコストです。
価格が高い日でも、充電時の価格も高ければ実質スプレッドは小さくなります。BESSの収益評価では、「高値が出たか」ではなく、「安く充電して高く放電できたか」を見ることが重要です。
よくある誤解(Q&A)
Q
東京エリアで40〜50円/kWh台ということは、月平均も40〜50円台だったのですか?
A: いいえ。資料で示されているのは、東京エリアのエリアプライスの最高値が40〜50円/kWh台に上昇したという内容です。月平均が常に40〜50円台だったという意味ではありません。
Q
燃料費が10〜15円/kWh上がったなら、スポット価格も必ず同じだけ上がるのですか?
A: いいえ。10〜15円/kWh程度上昇したとされているのは、売り入札の限界費用に含まれる燃料費です。市場価格そのものが必ず同じ幅で上がるわけではありません。
Q
価格高騰は不適切な取引が原因だったのですか?
A: EGCは、現時点で市場相場を変動させることを目的とした不適切な取引は確認されていないとしています。
Q
今回、JEPXの価格上限や手数料が変わったのですか?
A: 今回資料で確認できる範囲では、価格上限や手数料の変更決定は示されていません。
Q
蓄電池事業者にとって、価格高騰は必ずプラスですか?
A: 必ずしもそうではありません。蓄電池の収益は、充電時と放電時の価格差、充放電ロス、劣化費、運用費、接続エリアの価格で決まります。
出典(一次情報のみ)
本記事は、2026年6月19日に開催された第21回制度設計・監視専門会合の資料3「スポット市場価格高騰について」を参照しています。
対象は、2026年4月以降のJEPXスポット市場価格高騰、東京エリアのエリアプライス上昇、価格高騰要因、ブロック入札への対応、およびBESS実務への影響整理です。
参照日:2026-06-29
電力・ガス取引監視等委員会「スポット市場価格高騰について」第21回制度設計・監視専門会合 資料3、2026-06-19。参照日:2026-06-29。
主な参照箇所:p.2「スポット市場価格高騰の状況」、p.3「価格高騰要因分析」、p.4「LNG価格の推移」、p.5「ブロック約定率の推移」、p.6「買い入札価格の推移」、p.7「供給力の抑制状況」、p.8「スポット価格高騰に対する対応」、p.11「ブロック入札に係る周知文」。
監修者
青栁 福雄
Aoyagi fukuo
Energy Link 取締役 COO
系統運用・需要側制御・スマートグリッド分野の実務家。東京電力にて変電所の建設・運用・保守および大口顧客向けエネルギーソリューションに従事。マイエナジー出向時には2002年日韓ワールドカップの複数会場および国際放送センターの電源責任を担当。東光高岳では執行役員としてスマートグリッド事業を統括し、NEDO事業等に参画。2019年にEnergy Linkを創業し、分散型電源の導入・利活用を推進。
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